2017年大学入試センター試験問題



国語 解答 第3問 問1~6正解

第 3 問 
次の文章は『木草(きぐさ)物語』の一節で、主人公の菊君(本文では「君」)が側近の蔵人(くろうど)(本文では「(あるじ)」)の屋敷を訪れた場る。これを読んで、後の問い(問1 ~ 6)に答えよ。(配点 50)

 

にはかのことなれば、主は「(注1)まうけもしあへず、いとかたじけなき御座(おまし)なりや」と、「こゆ(注2)」るぎのいそぎ、さかな求めて、御供の人々もてなし騒ぐに、君は「涼しきかたに」とて端近う寄り(ふ)し、うち乱れ(たま)へる御様、所柄はまいてたぐひなう見え給ふ。隣といふもいと近う、はかなき(注3)透垣(すいがい)などしわたしたるに、夕顔の花の所せう咲きかかりたる、目(な)れ給はaぬものから、をかしと見給ふ。やや暮れかかる露の光もまがふ色なきを、おりたちてこの花二房とり給へるに、透垣の少し空きたるよりさしのぞき給へば、尼のすみかと見えて、(注4)閼伽棚(あかたな)にはかなき草の花など摘み散らしたるを、五十(いそじ)ばかりの尼の(い)できて、水すすぎなどす。花皿(注5)数珠(すず)の引きやられて、さらさらと鳴りたるもいとあはれなるに、また奥の方よりほのかにゐざり出づる人あり。年のほど、二十(はたち)ばかりと見えて、いと白うささやかなるが、髪のすそ、居丈(ゐたけ)ばかりにこちたく広ごりたるは、これも尼bにやあらむ、たそかれ時のそらめに、よくも見わき給はず。片手に(きやう)持てるが、何ごとやらむ、この老尼(おいあま)にささやきてうち(ゑ)みたるも、かかる(注6)(むくら)の中には(ア)にげなきまで、あてにらうたげなり。いと若きに、何ばかりの心をおこしてかくはそむきcぬらむと、はかなきことに御心とまる癖なれば、いとあはれと見捨てがたう(おぼ)す。
主、御果物などさるべきさまに持て出でて、「これをだに」と、(注7)経営(けいめい)し騒ぐに、入らせ給うても見入れ給はず。いとあはれなる人を見つるかな、尼ならずは、見ではえやむまじきA御心地して、人なきひまに御前にさぶらふ(わらは)に問ひ給ふ。「この隣なる人はいかなるものぞ。知りたりや」とのたまへば、「主のはらからの尼となむ申し(はべ)りしが、月頃山里に住み侍るを、この頃あからさまにここに出でものして、君のかくにはかに渡らせ給ひたる、折悪(をりあ)しとて、主はいみじうむつかり侍る」と聞こゆ。「その尼は、年はいくつばかりにか」と、なほ問ひ給へば、「五十あまりにもやなり侍らむ。娘のいと若きも、同じさまに世をそむきて、とうけたまはりしは、まことにや侍らむ。身のほどよりはいやしげなくて、こよなう思ひ上がりたる人ゆゑ、おほくは世をも(う)んじ果て侍るとかや。げに仏に仕ふる心高さはいみじく侍る」とてうち笑ふ。「あはれのことや。さばかり思ひとりしあたりに、常なき世の物語も(イ)聞こえまほしき心地するを、うちつけなるそぞろごとも罪深かるべけれど、いかがいふぞ、こころみに消息(せうそこ)伝へてむや」とて、(注8)御畳紙(たたみがみ)に、X 「露かかる心もはかなたそかれにほの見し宿の花の夕顔」童は心も得ず、あるやうあらむと思ひて、(ふところ)に入れて行きぬ。なごりもうちながめておはするに、人々、御前に参り、主も「つれづれにおはしまさむ」とて、さまざま御物語など聞こゆるほど、夜もいたく更け行けば、君はかの御返しのいとゆかしきに、あやにくなる人しげさをわびしう思せば、B眠たげにもてない給うて寄り臥し給へば、人々、御前に「いざ、とく臥し給ひdね」とて、主もすべり入りぬ。からうじて童の帰り参りたれば、「いかにぞ」と問ひ給ふに、「『すべてかかる御消息伝へうけたまはるべき人も侍らず。所違(ところたが)ヘにや』と、かの老尼なむ、ことの外に聞こえし」とて、Y『世をそむく葎の宿のあやしきに見しやいかなる花の夕顔かく申させ給へ』と、おぼめき侍りしかばなむ、帰り参りたる」と聞こゆるに、かひなきものから、ことわりと思し返すに、寝られ給はず。(ウ)あやしう、らうたかりし面影の、夢ならeぬ枕上(まくらがみ)につと添ひたる御心地して、間近けれども(注9)とひとりごち給ふ。

 

 

(注)
1 御まうけもしあへず、いとかたじけなき御座なりや ーーー 十分なもてなしができずに、蔵人が恐縮していることを表す。

 

2 こゆるぎのいそぎ ーーー 急いで。「こゆるぎのいそ」は神奈川県大磯あたりの海浜。「いそぎ」は「磯」と「急ぎ」の掛詞(かけことば)

 

3 透垣 ーーー 竹や板などで間を透かして作った垣。

 

4 関伽棚 ーーー 仏に供えるための水や花を置く棚。

 

5 花皿 ーーー 花を入れる器。

 

6 葎 ーーー (つる)状の雑草のことで、手入れのされていない住みかのたとえ。ここでは、隣家が質素な様子であることを表す。

 

7 経営 ーーー 一世話や準備などをすること。

 

8 畳紙 ーーー 折りたたんで懐に入れておく紙。

 

9  間近けれども ーーー 「人知れぬ思ひやなぞと葦垣(あしがき)の間近けれども逢ふよしのなき」という古歌を踏まえ、恋しい人の近くにいながら、逢えないつらさをいう。

 

 

問 1 傍線部(ア)~(ウ)の解釈として最も適当なものを、次の各群の①~⑤のうちから、それぞれ―つずつ選べ。解答番号は

 

 

問 2 波線部 a ~ e の助動詞を、意味によって三つに分けると、どのようになるか。その組合せとして最も適当なものを、次の①~⑤のうちから―つ選べ。解答番号は

 

① 〔 a 〕 と 〔 b c e 〕 と 〔 d 〕

 

② 〔 a 〕 と 〔 b e 〕 と 〔 c d 〕

 

③ 〔 a c e 〕 と 〔 b 〕 と 〔 d 〕

 

④ 〔 a d 〕 と 〔 b 〕 と 〔 c e 〕

 

⑤ 〔 a e 〕 と 〔 b 〕 と 〔 c d 〕

 

 

問 3 傍線部A「御心地」とあるが、その説明として最も適当なものを、次の①~⑤のうちから―つ選べ。解答番号は

 

① うらさびしい家にいる二人の尼の姿を見て、どういう事情で出家したのか確かめずにはいられない菊君の好奇心。

 

② 隣家にいる二十歳くらいの女性の姿を垣間(かいま)見て、尼であるらしいとは思いながらも湧き上がってくる菊君の恋心。

 

③ 突然やって来た菊君にとまどいながらも、うまく接待をして、良い身分に取り立ててもらおうとする蔵人の野心。

 

④ 菊君の来訪を喜びつつも、隣家にいる身内の女たちに菊君が言い寄りはしないか心配でたまらない蔵人の警戒心。

 

⑤ 菊君の姿を目にして、娘にとっては尼として生きるより彼と結婚する方が幸せではないかと思案する老尼の親心。

 

 

問 4 傍線部B「眠たげにもてない給うて」とあるが、その説明として最も適当なものを、次の①~⑤のうちから―つ選べ。解答番号は

 

① 菊君は、老尼の娘と恋文を交わそうとしていたが、蔵人たちがそうした菊君の行動を警戒してそばから離れないので、わざと眠そうなふりをして彼らを油断させようとした。

 

② 菊君は、童を隣家へ遣わして、その帰りをひそかに待っていたが、蔵人たちがなかなか自分のそばから離れようとしないので、人々を遠ざけるために眠そうなそぶりを見せた。

 

③ 菊君は、老尼の娘からの返事が待ちきれず、こっそり蔵人の屋敷を抜け出して娘のもとに忍び込もうと考えたため、いかにも眠そうなふりをして周囲の人を退かせようとした。

 

④ 菊君は、忙しく立ち働く蔵人の様子を見て、突然やって来た自分を接待するために一所懸命なのだろうと察し、早く解放してあげようと気を利かせて、眠くなったふりをした。

 

⑤ 菊君は、慣れない他人の家にいることで気疲れをしていたので、夜遅くになってもまだ歓迎の宴会を続けようとする蔵人に、早く眠りにつきたいということを伝えようとした。

 

 

問 5 X ・ Yの和歌に関する説明として最も適当なものを、次の①~⑤のうちから―つ選べ。解答番号は

 

① X の歌の「露」は、菊君の恋がはかないものであることを表している。Y の歌は、そんな頼りない気持ちであるならば、一時の感傷に過ぎないのだろう、と切り返している。

 

② X の歌の「心」は、老尼の娘に恋する菊君の心情を指している。Y の歌は、恋は仏道修行の妨げになるので、残念ながらあなたの気持ちには応えられない、と切り返している。

 

③ X の歌の「たそかれ」は、菊君が老尼の娘を見初めた夕暮れ時を指している。Y の歌は、夕暮れ時は怪しいことが起こるので、何かに惑わされたのだろう、と切り返している。

 

④ X の歌の「宿」は、菊君が垣間見た女性のいる家を指している。Y の歌は、ここは尼の住む粗末な家であり、あなたの恋の相手となるような女性はいない、と切り返している。

 

⑤ X の歌の「夕顔」は、菊君が垣間見た女性を表している。Y の歌は、この家に若い女性は何人かいるので、いったい誰のことを指しているのか分からない、と切り返している。

 

 

問 6 この文章の登場人物に関する説明として最も適当なものを、次の①~⑤のうちから二つ選べ。解答番号は

 

① 童は、菊君から隣家にいる女性たちの素性を問われ、蔵人のきょうだいの老尼とその娘であることを伝えつつ、娘は気位が高いので出家したのだろうとも言った。菊君から使いに行くように頼まれた時も、その真意をはかりかねたが、何かわけがあるのだろうと察して、引き受けた。

 

② 菊君は、夕暮れ時に隣家の母娘の姿を垣間見、まだ二十歳くらいの娘までも出家姿であることに驚いて興味を持ち、恋心を抱いた。出家した女性を恋い慕うことに対して罪の意識を強く感じたが、本心からの恋であるならそれも許されるだろうと考えて、娘に手紙を送ることにした。

 

③ 蔵人は、来訪した菊君に対して精一杯のもてなしをしようとつとめながらも、連絡もなくやって来たことには不満を感じていた。わざわざ用意した食事に手も付けない菊君の態度を目にしてますます不快に思ったが、他人の気持ちを(く)み取ることができない菊君をあわれだと思った。

 

④ 老尼は、ふだんは山里に住んでいるが、娘を連れて久しぶりにきょうだいの蔵人をたずね、そのまま蔵人の隣家に滞在して仏に花をささげるなどしていた。その折ちょっとした用事で蔵人のところにやって来た菊君に娘の姿を見られてしまったので、蔵人に間の悪さを責められた。

 

⑤ 老尼の娘は、二十歳くらいとたいそう年は若いが、高貴な身分から落ちぶれたことによってすっかりこの世を(いと)い、母の老尼と同様にすでに出家も果たしている。その後、仏に仕える日々を蔵人の屋敷で静かに送っていたが、菊君から歌を贈られたことで心を乱し、眠れなくなった。

 

 

 

 

設問 解答番号 正解 配点
1 21 3 5
22 3 5
23 4 5
2 24 5 5
3 25 2 7
4 26 2 7
5 27 4 8
6 28 1 8

 

 

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